2006年 03月 28日
ティピ物語 その3 |
いまだから告白するが、ヤツガレ、初めてみた時この哀れな小猫がこのまま生き続けられるとはとても思えなかった。決して衰弱して今にも死にそうだというわけではないが、鳴き声は弱々しいし、歩行もおぼつかない。実に不安げな、辛そうな目をしている。その目だって最初は開いていなかったそうである。失明したのかと思っていたが、獣医さんがまぶたを上下に引っぱってみるとペロリと開いた。熱で貼り付いていたのである。耳は焼け焦げて、縮んでしまっている。鼻は瘡蓋(かさぶた)状態、両脇のヒゲはすでにない。尻尾はなぜか先っぽが細くカチカチになっていた。
こんな不如意なからだをひきずって、あわよくば生きながらえたとしても、この猫は幸福なのであろうか? いたずらに延命措置をほどこすよりも、いっそ新しい世界に生まれかわったほうが、、、などと、ヤツガレは消極的なことばかり考えていたのである。
ところが、ずいぶんあとになって聞いたことだが、彼女もこの猫がかならず回復して元気になると確信していたわけではなかった。むしろ、できるだけいまの痛みをやわらげて、たとえ死ぬにしても安楽にタタミの上で死なせてやりたいとおもっていたのだった。これは意外であった。当時は、そんなことは一言もいわず、ひたすら救命措置に身を賭しているかのごとき姿勢だったからだ。(ヤツガレ、マイナス志向を叱られてばかりいた。)
その介護ぶりたるや、まあ「献身」という一語にふさわしいものであった。
完全24時間体制で流動食を与え、膏薬を塗り、全身を慈くしむように撫でさすっていた。
野生動物は強いものである。看護の甲斐あって、延命どころか徐々にではあるが元気になってきた。十日、二十日と経つにつれ、耳、鼻、尻尾の瘡蓋は落ち、ヒゲも生えてきた。体毛も、生えて来ないかも知れないといわれていたが、見事に生え換わってきた。
すべて順調に回復している中で、ただひとつ気掛かりなことがあった。
どうも自力でウンコができないらしいのである。
つづく
その1
その2
こんな不如意なからだをひきずって、あわよくば生きながらえたとしても、この猫は幸福なのであろうか? いたずらに延命措置をほどこすよりも、いっそ新しい世界に生まれかわったほうが、、、などと、ヤツガレは消極的なことばかり考えていたのである。
ところが、ずいぶんあとになって聞いたことだが、彼女もこの猫がかならず回復して元気になると確信していたわけではなかった。むしろ、できるだけいまの痛みをやわらげて、たとえ死ぬにしても安楽にタタミの上で死なせてやりたいとおもっていたのだった。これは意外であった。当時は、そんなことは一言もいわず、ひたすら救命措置に身を賭しているかのごとき姿勢だったからだ。(ヤツガレ、マイナス志向を叱られてばかりいた。)
その介護ぶりたるや、まあ「献身」という一語にふさわしいものであった。
完全24時間体制で流動食を与え、膏薬を塗り、全身を慈くしむように撫でさすっていた。
野生動物は強いものである。看護の甲斐あって、延命どころか徐々にではあるが元気になってきた。十日、二十日と経つにつれ、耳、鼻、尻尾の瘡蓋は落ち、ヒゲも生えてきた。体毛も、生えて来ないかも知れないといわれていたが、見事に生え換わってきた。
すべて順調に回復している中で、ただひとつ気掛かりなことがあった。
どうも自力でウンコができないらしいのである。
つづく
その1
その2
by konchikusho
| 2006-03-28 08:08
| ファミリー